先日、秋のギリシャに行ってきました。ギリシャのアートレポートです。
夏から徐々に寒くなる段階で、夜は冷え込み、最終日にはセントラルヒーティングが入るほどの寒さでした。私にとって初のギリシャ滞在となります。
今回の目的は、文化庁の海外研修でギリシャに1年間滞在しているアーティストの時里充君を訪ねることでした。また、ヨーロッパの中でギリシャのアートシーンが盛り上がっていると聞いていたので、その視察も兼ねていました。
Theo Triantafyllidisのスタジオでのスマホアート展示
訪問時、時里君がインターン研修しているTheo Triantafyllidisさんのスタジオ兼ギャラリーで、特別な展示が行われていました。この展示では、複数のアーティストがスマートフォンを壁に両面テープで貼り付け、1日だけ展示するというものでした。ある人はAIで生成した動画をループ再生し、別の人はコンセプチュアルな航空写真をインスタグラムで表示するなど、多様な作品が並んでいました。参加者は総勢20人ほどで、年齢層も幅広く、キャプションは特になく、どの作品が誰のものか分からない形で展示されていました。
https://slimetech.org/exhibitions/total-screen-time
ゲームエンジンアートがもたらす新たな体験
Theo氏はゲームエンジンを使って作品を作り、近年ではGPUの速度向上によって精度が向上し、一般のコンピューターでも現実と見分けがつかないほどのクオリティで制作できる環境が整っています。
このTheoさんはVRコントローラーを使って舞台作品を制作しており、もともとそのデモ映像を見て興味を持ったことが、時里君がこの作家を選定する際のきっかけになったようです。
そのため、ゲームの世界観を現実のオブジェで表現し、現実とゲームの世界をつなぐ作風で知られています。過去の作品で私が印象に残っているのは、ゲームに登場するキャラクターがアラートを送り合うだけのシンプルなものでしたが、ゲームと現実のメタバースをつなぐ興味深い作品でした。2019年に発表されたこの作品は、現在も評価されています。最新作では、Unityを使ってインディーズゲームを制作し、それをゲーム販売プラットフォームで公開する一方、ゲームに登場するオブジェを彫刻として展示するというスタイルです。複数のチームが分業して世界観を構築し、AI生成と手作業による改良を繰り返しながら、現実と仮想世界を行き来する手法で制作されています。ニューヨークで行われたイベントでは、ゲーム内のシーンを実際に人間が再現するというパフォーマンスが行われ、非常に面白いものでした。このように、ゲームエンジンを使ったアート作品は近年多く登場しており、現実とメタバースをつなぐ試みが注目されています。
一点これらの作品の課題としては、ディテールがリアルになりすぎて、実写かCGかほとんどわからなくなっている点です。時里君の近年の作品はそれが謙虚に出ていると思われます。リアルすぎるのです。この問題はヴァーチャルという用語なくなり、ディスプレイされたものが全てアクチャルに実現しているとといった価値観に移行する前段階のような気もします。
ギリシャの生活と現状
ギリシャはユーロ圏内では比較的物価が安いため、多くのアーティストが移住しているそうです。特にユーロ圏の東端に位置することから、中東やアフリカからの移住者が多く、それに伴い土地の価格も徐々に上昇しています。また、中国人投資家による高級物件の購入も進んでおり、地価の上昇に拍車をかけています。このような状況は、アーティストにとって魅力的な環境を提供する一方で、地元住民にとっては厳しい経済状況を生み出しているようです。
ギリシャでは、約7000万円程度の不動産投資で永住権が取得できるとのことです。これは、京都で一軒家を購入する費用(約5000万円から)と比較すると、日本のサラリーマンでもEU永住権を手に入れられる現実的な選択肢となります。このような投資価値の高さが、中国人投資家の関心を引く理由の一つとも考えられます。
ギリシャの観光
ギリシャ観光といえばパンテオンですがこれは、アテネ市内なのです。郊外にも魅力的な観光スポットが点在しています。有名な島も数多くありますが、私達は歴史的な観点からデルフォイの神託所への訪問を決意し、バスでの旅を計画しました。
興味深いことに、ギリシャ行きを決める前から、自宅トイレに掲示されていた1932年作のクレーの絵画が印象に残っていました。後になって気づいたのですが、その絵はパルナッソス山(デルフォイの神託所に隣接する神聖な山)を描いたもので、描かれていたアーケード状の建造物は神託所を表現していたようです。
実際に現地を訪れた際は、神託所からパルナッソス山を直接見ることはできませんでしたが、バスの車窓からその雄大な姿を眺めることができました。その景観は圧巻で、まさに一生に一度は訪れるべき場所だと実感しました。
行く際の注意点として、バスの運行本数が限られているため、早朝に出発して日帰りするか、山麓の町に宿泊することをお勧めします。