石若駿: 未知のエゴ: AIがもたらす演奏革命

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2022年に上演された「Echoes for unknown egos―発現しあう響きたち」の際に考えたそのパフォーマンスの意義について当時のノートを公開します。このプロジェクトは、ジャンルを超えた幅広い活動で注目を集めるパーカッショニスト、石若駿とYCAMが共同開発したコンサートです。

YCAM InterlabとAIエンジニアによって試作されたAIセッションパートーナー

石若が演奏するドラムセット以外に、セッションパートナーとしてアナログ楽器やコンピューターによる電子楽器が混在し、自動演奏するドラム、自動演奏するMIDIピアノ、石若が開発した回転式リズム生成機PONGO、フィードバックループを応用し発音するシンバル、アナログな装置からコンピューターコントロールされたアクチュエーターによる打楽器演奏、全てコンピューターの中で生成された電子音の楽器までそれとそれらを管理する複数のAIエージェントが演奏をサポートし共演します。YCAM InterLabとAIエンジニア野原恵祐と小林篤矢によって開発され、私もこのクリエイションに参加しました。

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藤井聡太棋士とAI: AIが変えるアプローチの転換

AIを使ったセッションというと、AIとのチェスの対局のように、対戦相手として位置づけがちですが、今回のコンサートでは、ミュージシャン自身の演奏を深めるためにAIを活用します。

クリエイションは2020年より始まり、当時AIの位置づけといえば、チェスなどの対局AIは有名です。AIはカストロへの勝利からこれらの研究の新規性においては終わりを迎え、その後これらの技術は、人間には想像できなかったパターンを導き出したり、トレーニングとして活用されたり、ゲーム鑑賞者のためのハイブリッドな解説に応用されていきます。

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これらの対戦型AIで同時代における事例として将棋における藤井聡太棋士はこれまでの棋士と比較して、AIを活用した練習方法で革新的な存在として知られています。従来の棋士が過去の対局のデータベースから、戦略を構築するのに対し、藤井棋士は独自にチューニングしたAIと日々練習することで、新しい戦術を生み出しています。

AIの出現により、ゲームプレイヤーの思考方法は大きく変化しました。従来は過去の経験や知識が重視されていましたが、AIが各局面での確率を計算できるようになった今、プレイヤーは独自のAIシステムでトレーニングを重ね、過去には考えられなかったような新しい戦略を生み出すことができるようになりました。

これはジャズセッションにおいても、AIは革新的な役割を果たす可能性があります。従来のセッションでは、過去の演奏が指標となり、それらを参考に演奏が行われてきました。しかし、AIを活用することで、過去の演奏から逸脱した、より自由で創造的な演奏の可能性が模索されます。

この作品はパーカッショニスト石若の過去の演奏や本人以外の演奏のデータセットを学習したAIと、コンサート会場に設置された様々な自動演奏装置と練習を重ねることで、未知のセッションを実現しようとするものです。

以下はカイル・マクドナルド氏が開発したもので先行研究として参考にしている。

The Infinite Drum Machineマニー・タン&カイル・マクドナルド2017年に発表

ジャズセッションのためのAIの役割

作曲や演奏におけるAIは、チェスや将棋のAIとは異なり、はるかに複雑です。音楽では、音域や時間軸において解像度が高く、勝敗という明確な価値基準もありません。むしろ、ルール自体が即興演奏者たちによってリアルタイムで創出されるものです。

このような演奏におけるセッション相手をAIで作り出すことは、極めて挑戦的な課題です。なぜなら、相手の演奏が分かり切っていると演奏がつまらなくなり、逆に相手を完全に逸脱してしまうと対話が成立しなくなるからです。つまり、分かり合いつつ適度に裏切られなければなりません。これは他者のもんだいであり、AI研究では、AIが「他者」とどのように関わるかという問いにはまだ答えが見つかっていません。

YCAMではフラメンコダンサーのイスラエル ガルバンと共演相手としての AI の制作に取り組んでいます。このクリエーションではAI に出る作曲の第一人者の徳井直生氏と制作を行っており、今回の石若とのクリエーションも徳井氏と紹介によるプログラマーと共同で開発しました。

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AIと演奏家の関係性: 未知のエゴがもたらす音楽の未来

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AIは人間を凌駕する「他者」ではなく、自らの可能性を映し出す鏡であり、自らの中にある他者の生を明らかにするために利用されます。

従来の演奏家が蓄積してきた演奏体系をエゴとするならば、AIが生成する演奏体系は未知のエゴであり、その未知の演奏体系を演奏家に反映・反響させることで新たな演奏奏法を導き出すことがこのクリエーションのテーマであり、タイトルに その意図が込められています。

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