
本プロジェクト「さようなら旧市庁舎プロジェクト ハシヲワタス」は、新市庁舎移転に伴い解体される旧山口市庁舎(元山口大学教育学部校舎)を舞台に、2025年5月23日から6月1日まで行われた市民参加型プロジェクトです。
旧庁舎の歴史と記憶を未来へ「橋渡し」することを目指し、市民と旧庁舎の最後のお別れの場として、現代アート展、アーカイブ展示、ワークショップなど多岐にわたる芸術とコミュニケーションを中心としたイベントが10日間開催されました。
Contents
作品「インターアクトメント 建物・言葉・空間の対話」について
「インターアクトメント 建物・言葉・空間の対話」は、旧山口市役所庁舎を舞台に、ダンス、映像、言葉、AIなどを活用して空間との対話を試みる映像作品です。展示は2階広報広聴室で行われ、最終日には山口を代表する即興演奏のミュージシャンである一楽儀光を含む4人のミュージシャンによるライブパフォーマンスが上演されました。
映像作品は、2025年5月19日からの4日間で撮影・編集されました。小型ドローンによって山口市役所内の廊下や屋上、使用済みオフィス家具が積まれた空間などを撮影し、建築に刻まれた記憶や痕跡を観察し、作者が直観的に行為として介入する様子を捉えています。
振付アドバイザーに山口在住の福留麻里さんを起用し、これまでの名所でのダンスシリーズや山形ビエンナーレでのビデオダンス作品同様にダンス中心の映像を検討していましたが、市役所の建築をドローンの滑らかな動きで見せる演出に福留との相談の上で決定し、ダンスパートは結果的に少なくなりました。
ドローン撮影について
ドローン撮影についての質問が多かったので、これにお答えします。2022年6月20日にドローンの操縦者の国家資格制度(無人航空機操縦者技能証明制度)が改正され、それまで200g以上だった航空法の規制対象が100g以上に引き下げられました。これは規制が厳しくなった部分もありますが、100g以下はトイドローンと呼ばれ凧や模型飛行機とおなじく、国が関与しない(ほぼおとがめなし)となりました。一部のトイドローンは本格的な機能を持っているものもあり、今回使用したHOVERAir X1もその部類です。このHOVERAir X1は気の利いた自撮り棒だと思っていただくとよいでしょう。
飛ばす前に撮影者の顔認証を求められ、基本的に飛行直前に登録された人物を追跡するようになっています。よって、盗撮や人が入れないところへの侵入などはできません。これは不都合がある撮影者も多いでしょうが、人物を中心に見せたいダンスなどの演出には大変都合がよいドローンです。
飛行パターンも5つからしか選ぶことができず、手のひらから飛び立って、自分を中心に一周して戻って、また自分の手に戻ってくるなど、簡単なパターンを実行するのみです。(飛行距離などの詳細設定はスマホアプリから細かく設定できる)バッテリーはすぐになくなりますので、追跡モードで5回も撮影したらすぐに交換です。
まとめ
- 100g以下のドローンはおもちゃと同じ扱い
- HOVERAir X1は気の利いた自撮り棒、人物を中心に撮影
- HOVERAir X1は飛行前に撮影者の顔認証が必要
- HOVERAir X1は未登録の人物や入れないところへの侵入ができない、よって盗撮はできない
- HOVERAir X1飛行パターンも5つからしか選ぶ
- トイドローンは軽量な分、飛行時間が短い
音声構成について
作品の音声は架空のラジオ番組形式で構成され、山口市役所の成り立ちをリアルとフェイクの二つの視点から語られています。対話型AIで収集した資料をもとに、AIによってナレーションが生成されました。情報源は同じであるにもかかわらず異なる語りが生まれ、そこには情報の信頼性の問題や名称の読み間違いなど、現在のAI技術の限界もそのまま記録されています。
先月あたりから話題になっているGoogle NotebookLMです。対話型のAIは、これまでネット上の文献のみをAI学習対象としていましたが、ここでは、手持ちの資料を直接AIに学習させて回答させることができるシステムです。概要を見ていると、勉強用や論文用のツールが基本で、問題集を作成して、自分の学習理解度を測定するような目的で作られているようです。ここに5分間のラジオドラマ風の概要読み上げが付属しており、どんな文体の、どんな文字でも、概要をラジオドラマ風に生成します。
もともとネット上で集めた亀山公園周辺の情報を学習させて生成したラジオドラマと、その資料を丸ごと「宇宙人陰謀論だったら?」というドラえもんの”もしもボックス”のような質問を投げかけた際に生成したのがフェイクのラジオドラマです。問題点は、やや間違った情報や名称の読み方を修正するのが少し修正する程度では変更できなかったので、現在のAI技術の限界もそのまま記録することにしました。
なお、西田幾多郎の情報、特に宇宙人が純粋経験を捜査していたという内容は後から意図的に追加したものです。「善の窓」は西田幾多郎の「善の研究」から、また宇宙人の名称「ゼッターイ・ムーム」は「絶対無」であり、これらはAIに直接指示したものです。
「LAST PERFORMANCE」音楽イベントとの連携について
旧市役所でのプロジェクトが立ち上がった際に実行委員会に提案していたのは、一楽儀光を紹介できないかということでした。母体である、YICA(山口現代芸術研究所 Yamaguchi Institute of Contemporary Arts)は基本的に現代美術のグループなので音楽とのつながりはほとんどありません。しかし、現在ではクリスチャン・マークレーや坂本龍一をはじめ、ミュージシャンが本職でありながら展示も行うアーティストは多くいます。今回は、大脇の展示のフレームの中でライブイベントを行うことで一楽を紹介するにとどまりましたが、YICAと一楽、および音楽を軸としたアーティストとの連携も実現しました。

ライブには中上淳二によるライブコーディングによる演奏。大脇による薩摩琵琶とダンス。本職がフォトグラファーである谷康弘はライブ中に会場内を撮影し、それをその場でプロジェクターで上映したり、天井から吊られた、エレキギターと、ターンテーブルでの演奏し、最後には大脇と谷とで吊られたエレキギターをブランコのように乗りました。最後は一楽によるソロライブが行われ、想像以上の音量で、建築ががたがた揺れるほどでした。
「インターアクトメント 建物・言葉・空間の対話」ライブ版について
大脇のライブは本編の映像作品と連続したものです。2025年よりVTuberやライバー活動を始めていますが、これらはパフォーマンスと展示作品を現在のSNS環境を用いて批評的に新しい場を形成することが目的です。また、「インターアクトメント」というパフォーマンスとコミュニケーションをデジタル技術とその場づくりで新しいムーブメントを創造する活動も、この活動のベースとなる思想としてコンセプトを支えています。今回のライブでは、歴史的な建造物とそこに関わる市民との関わりを新たにインターアクトメントすることが考えられていました。
当初は、ワークショップを開催することで、実際に歴史的建築物と関わってきた人々から話を聞き出すことも検討されていましたが、予算的・時間的制限からこれは見送られ、インターネットで公開されている資料と現在の建築物のディテールのみを使って行う方法に絞りました。
映像作品では建築に刻まれた記憶や痕跡を観察し、作者が直感的に行為として介入する様子を捉えています。ライブ会場には実際にその歴史的建築物と関わってきた人々が観覧されることを想像し、どのようにアプローチすべきかについて考えました。そこで「行為としての介入」の一つとして声を発し、言葉を空間に響かせることは、ダンサーの身体表現と同様に、空間への直接的な働きかけだと考えました。

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「アン風山口市役所歴史」の導入
そこで新しいアイデアを導入しました。『赤毛のアン』(現在はアン・シャーリーというタイトルに改題していますが、モンゴメリーの表記に忠実に赤毛のアンとします)の小説冒頭で、グリーンゲーブルズへ向かう馬車に乗ったアン達が一見平凡な田舎に見える景色を、アンは様々な詩的な言葉で別世界に変えて見せるおしゃべりのシーンがありますが、これにヒントを得て「アン風山口市役所歴史」をAIと作成しました。
『赤毛のアン』の特に小説前半の特徴は、平凡なものでも言葉でラッピングするとキラキラ輝き出す想像力です。アンのAnn(e)にeが付いているかいないかでキラキラ度が違うと言っているあたりが象徴的で、言葉の問題であり命名の問題で、発音されない(e)だとしてもキラキラ輝くものだと示しています。本パフォーマンス用朗読文ではキラキラワードを擬音語・擬態語をふんだんに使用することとしました。これらの言葉はしばしば身体的な感覚や動きと結びつきやすいものです。言葉(朗読)を通じて身体や空間との関係を探求する意図も込められています。擬音語・擬態語からのインスピレーションでダンスの動きが創作されました。
また、映像パートで2通りのドラマを生成しましたが、二つに共通する内容として、見た目の建築物の背後に建築的な意味以外に様々な歴史的な意味があり、大学だったものが市役所に変貌するといった、建築システムの内容がごっそり入れ替わっている点が共通に強調されています。これは見た目は同じでも、内容が変わっているということであり、映像でも、同じ建築物でも異なるドラマを聞いた際に、その印象は変わってしまうことを意味しており、これは先に述べた「赤毛のアン」の文法と同じことを指しています。
単なるテキストの提示ではなく、建物・空間に対する詩的かつ個人的な対話であり、身体性や感覚を伴う「行為としての介入」であり、そしてプロジェクトが提示する多様な「語り」の一つとして、パフォーマンスでは言葉のラッピングの意味の向こう側を見せることが最終的な主題となりました。
ただし、ライブ自体は焦ってしまい、じっくり演奏やパフォーマンスに取り組めなかったことから、個人的には良いパフォーマンスとは言えませんでしたので、ビデオ版を再生製作を予定しています
やまぐち亀山公園の丘、さわさわと風が歌うわ。
アン風の亀山公園 AIと生成
新しい学校生活、心がわくわくするの。
緑はゆうゆうと広がり、光がきらきら輝くのよ。
地面の小石がころころ転がる。
役所の人がきびきび動くのを見るの。
みんなにこにこしてるみたいね。
心がうきうき弾むわ!
空の雲がふわふわ。
磨れた床はぴかぴか。
人々の声がざわざわ聞きこえる。
風がごうごうと鳴る時もあるわ。
古い窓ががたがた震えるの。
工事の音がどんどこ響くのも、時代の音かしら?
時がたんたんと過ぎていく。
勉強をこつこつ頑張るのよ。
歴史をつくづく思うとしみじみして、絵画をじーっと見つめてしまうわ。