砂連尾理さんによるとつとつダンス2023年度活動報告展示会|”Totsu-Totsu Dance” Project Presentation in 2023を見てきました。
今回は砂連尾理、神村恵らによるワーク・イン・プログレスとしてのパフォーマンス作品を発表し。関係者やゲストを招いたトーク・セッションです。後日当時のドキュメントをオンライン配信を予定しているようです。
とつとつダンスプロジェクト紹介
「とつとつダンス」は、2009年から京都府舞鶴市の特別養護老人ホーム「グレイスヴィルまいづる」で始まった、高齢者や認知症患者とのダンスワークショップとダンス公演のシリーズです。当初は、1人の高齢者と砂連尾さんが舞台で踊る作品として上映されていましたが、現在では、高齢者や認知症患者の幅広い参加者を対象にワークショップや公演が行われています。
今回の発表公演は、近年行われた、鹿児島、シンガポール、マレーシアでの施設でのワークショップが元になっていました。会場には、国内外から多くの観客が集まりました。
会場に入ると、目の前に広がるのはただの広い撮影スタジオで、劇場というよりは高いホリゾントが特徴的でした。ステージの側には、シンガポール、鹿児島、マレーシアでの様子を含む過去のイベントのドキュメンテーションが映像やスライドで壁に映し出されています。客席は折りたたみ式のパイプ椅子で、シンプルながらも実用的な雰囲気です。
パフォーマンスは、マレーシアとシンガポールの施設をオンラインのZoomでつなぎ、参加者たちが簡単なワークショップを通じて交流する場面から始まりました。その後、さまざまな施設の当事者の経験に触れたダンサーたちが、交互にまたは一緒に舞台に登場します。彼らは、体を通じてその経験や感情を表現し、観客はそれを見ることで間接的に当事者の体験に触れることができました。
ダンサーを通じて当事者を見る
特に心に残ったのは、砂連尾氏が誰も座っていない椅子の周りを太極拳を模したような動きで、ゆっくりと踊るシーンです。見ているうちに、誰も座っていない椅子に誰かが座っていたのではないかと想像が掻き立てられます。するとゆっくりとプロジェクターで投影され、ワークショップのドキュメンテーション映像がで映し出されます。そこには当事者と砂連尾氏が同期したパフォーマンスを行った場面で、観客は映像と現実のパフォーマンスが見事に重なる様子を目の当たりにしました。これは、ダンサーの身体を通じて、当事者が経験した感覚を共有する深い瞬間となりました。
パフォーマンス形式としては、ダンサーをメディアとし、ダンサーを通じて当事者を感じ取るパフォーマンスが一貫しており、絶妙なバランスでダンスとドキュメンテーションが交互に展開するものです。ドキュメンテーションは映像に限らず、音声だけだったり、詩だったりします。
このパフォーマンスは、ダンス作品という形式はきちんと守りつつも、終始一貫して当事者とダンサーとの間にある繊細な感情の交流を描き出していました。パフォーマンス終了後には、トークセッションやアンケート回収を通じて参加者の意見や感想が共有され、そのディスカッションはこの体験をさらに深めるものとなりました。
パフォーマンスの深層
パフォーマンスを観賞した際、Zoomを用いたオンラインワークショップも、コロナ禍でよく見かけるものでした。しかし、よく考えてみると、このパフォーマンスは、様々な事件や空間を凝縮していることがわかります。
- 10年以上にわたり一貫して行われているこのパフォーマンスは、様々な地域で展開された経緯をこの会場で目の当たりにすることができました。
- 現在も進行中の施設とのリアルタイムな交流が、Zoomを通じて可能になっており、まるで一緒にその場にいるかのような親密さを感じられました。
- ダンスとしての作品は、自分で物事を考える時間と、様々な現場での話が明確に区分されており、それぞれが独立して展開されています。
- 観客を交えたディスカッションがあり、観客同士のコミュニケーションも生まれました。
これらを総合すると、ダンサーと観客、そして長年の積み重ねられた経験といった様々な時空を一つのパフォーマンスの中で体験できるのです。
これからのパフォーマンスの在り方への一歩
このパフォーマンスはさらなる展開が可能です。現代のテクノロジーを活用することで、様々な施設で同時にパフォーマンスを行い、各地でディスカッションを展開することも可能です。これは、多くの社会的な問題をダンスという芸術表現を通じて浮かび上がらせ、世界中のコミュニティが連携してコミュニケーションを取ることを可能にしています。
これは90年代までの舞台表現とは全く異なる新しい形で、従来の観客席が暗く、作品を静かに鑑賞するスタイルから、様々な解釈が可能で、より社会的な問題に対峙しながらもコミュニティ形成の可能性を秘めた形式に変わりつつあります。この新しいアプローチは、舞台芸術として広く取り入れられるだろうと考えられます。