声から動きへ2

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発音が体の動きにどのように影響しているのでしょうか?野口体操のアイデアから始め、基本的な発音の”h”と”n”の発音(無音)に焦点を当て、それをする際の身体を検証します。その中で邦楽に置ける歌の発音における”n”の音に注目し、発声がパフォーマンスに影響を与えている可能性が考察されています。

[外部リンク] note_声から動きへ

野口三千三の体操の基本思想

野口三千三は、野口体操の創始者として知られ、東京芸術大学で体育の教師を務めていたことから、多くの芸術家が彼の体操を経験したアーティストも多いことでも知られています。

野口体操の思想においては、体は水袋のようなもので、骨や内臓が水袋の中に浮かんでいるという身体イメージをもとに、頭を空っぽにして「ぐにゃぐにゃ」と動くというものが有名です。一般的にはあまり語られていませんが、野口の書籍には、言葉と動きの関係に焦点を当てた独自の身体論が述べられています。彼にとって体操は、新しい言葉を生み出す行為であり、言葉と動きの関係を通じて原初的な感覚に訴えかけ、言葉を生み出す運動と見なされています。くちゃくちゃ動く体操のインパクトが強いことから、ことばと動きの関係は見逃されているのでしょう。また、しばしば野口整体活元運動と似ていると思われていますが、ことばの創造という点で活元運動とは異なります。

(1)動きがあるところには必ず音があり、音のあるところには必ず動きがある。
(3)動きにともなう音は、動くからだの中身のあり方その他の条件によって変わってくる
いろいろの楽器によって違う音の出ることと同じである。求める動きにとって必然性の
ある音を追求することは、その動きの本質を探る大切な方法である。

原初生命体としての人間 ― 野口体操の理論 p240

言葉と動きの関係に焦点を当てた身体論

野口のアプローチには、動きから言葉を生み出す場合と、言葉から動きを生み出す場合の2つがあると考えられます。前者が野口体操と言われているもののほとんどで、後者のことばから動きへの言及は「原初音韻論遊び」として述べられている。野口の書籍には「へ」は勢いよく空気が抜ける音で、「おなら」に代表され、蛇のようなにょろにょろした動きは「への身」=「へび」という具合に関係があると、かなりの曲解ではりますが、への発音から受ける印象は当たっていると思われます。実際やってみると分かりますが、オノマトペで「へこへこ」や「へろへろ」「へこへこ」と発音しながらその動きをやってみると、蛇やミミズのような動きがでてきます。

野口の書籍では、「からだことば」を声に出して発音するときを例に挙げ、各音において体で感じる具体的な体験を詳細に説明しています。

ただし、発音記号を考える際には、舌の形や息の抜き方に焦点を当てるべきで、日本語のあいうえお表や一例としては良いのですが、実際やってみると表現できない音がすでてくるのでさきに指摘しおきます。

「ら」動きや変化を内包している。内部は多重構造で少しゆとりがある。明るく軽快、くり返したくなる。空間的位置は水平よりやや高い。温度・湿度は適当。時間的には「か」よりも少し長い。

「だ」中心があり開放的である。快感をともなう重量感があり、存在感が明瞭、信 頼感がある。形は球だが中身は柔らか味があり、多重構造である。界面はやや変化があり、 柔らか味があり、隔絶されていない。温度はやや高く、湿度はやや高い。空間的位置はや や下のほう。純度はやや低く均質ではないが、不快感はない。上品とはいえないが。いい 意味での野蛮さ(みずみずしく荒々しい力強さ)がある。

「こ」形は球で小さく、よくまとまっている。中心が明瞭。界面はなめらかで明瞭。 求心的だが閉鎖的ではない。可愛らしく贔がいい。少し硬いが不快ではなく、存在感はき わめて明瞭。時間的には短く歯切れがいい。粘度は低く、純度は最も高い。

「ろ」形は球で「こ」よりも大きい。界面は多少の変化があり柔らか味がある。抱 擁性があり多重構造で内側にいろいろなものを含んでいる。中身にゆとりがあり、動きと変化を富んでいる。

「か」開放的。明るい。歯切れがいい。すみき。ている。均質。湿度・粘度は低い。温度は適温(時に低く時に高いこともある)。明度・純度は高い。空間的位置はやや高い。時間的には短いが、忙しくはない。

原初生命体としての人間 ― 野口体操の理論 p242

特異な発声練習とオノマトペの役割

発声練習では、“a””e””i””o””u”を声に出して発音しますが、これはベースになる声帯振動は同じで、口の形を変えることで発音しています。口の形を色々変えてみると、”r””l”の口の形もあることに気が付くでしょう。”v””b”のような唇を震わせる音、”g”もしくはフランス語の”r”のような喉の奥を震わせるものもあります。他には声帯を振動させずに発音する”th””sh”のような口の中を少し補足して勢いよく空気を出すことで、ホワイトノイズのような音作る方法や、”t””p””d”のようあ破裂音などがあります。やってみてどんなオノマトペが出てくるか試してください。

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これだけで一つのワークショップができるかとは思いますが、今回注目したいのは”h”と”n”の発音です。”h”の発音は口からの空気の抜ける音であり、”n”の発音は鼻からの空気の抜ける音です。これは口呼吸と鼻呼吸の違いを示していると述べていますが日常でどの様なシチュエーションで使われているか発音しながら創造してください。

”h”は「ため息」や「あくび」といった休息です。”n”は考えている時ではないでしょうか?

この休息と考え中の身体が”h”と”n”、口呼吸と鼻呼吸という動作と繋がっていると考えられないでしょうか?逆さまに考えると、”h”や”n”を発音すると、休息のからだと考え中の身体が作り出せるということも言えます。”h”のほうは普段から経験があると思います。緊張した時に深呼吸を意識的にしたり、疲れた時にため息をすることで無意識にですが身体が緊張をほぐそうとしますがこれらは全て、”h”の体を作ろうとしています。では”n”の体は普段作っているかといえば、肘に手を当てて「う~ん」とうなって考えている時はありますが、深呼吸はど使っていませんし、”n”の身体の後に良いアイデアが浮かんできた経験は特にないのでふに落ちない気がします。

ここで全く異なる例から考えてみます。

音楽との関わり:琵琶の練習と”n”の音

話は少しかわるが重要なヒントがあると考え提案す。私は琵琶を習っていて、師匠と他のお弟子さんとではパフォーマンスの質に格段の差があるとこれまで思っており、この秘密の具体的な理由や練習方法が分かりませんでした。他のお弟子さんは歌は口から聞こえ、演奏はがっきから聞こえるが、師匠は全身から聞こえる。この違いは長年の所作に秘密があるのではと思っていた。茶道における美は所作の説得力にあるからだが、それだけでは説明できないものがあるとも同時に思っていました。

近年、私は薩摩琵琶の歌の稽古の際に、”n”の音にもっと注意を払うように指示されました。その際に、主に邦楽の歌や歌舞伎や能の発声は”n”の音を中心に構成されているのではないかと気づきました。そして”n”を強調し鼻に音が抜けていくように発声すると、能楽師のような声になる。

“n”の音は、腹と喉の縦に響く低くて太く強い音になる。西洋の音楽のように口から出るのではなく、首や腹から音が出ているように聞こえる。これだと確信しました。ことばでは説明できないが、”n”の身体で座っていること、脱力するのではなく腹と喉とを太くもって座ることが師匠の説得力のあるパフォーマンスに繋がっているのではないだろうか?

独自のアプローチ:言葉から動きへの挑戦

“n”を発音しながら動いてみる。すると太く立っているだけで特に動けない。動けないのだ。足で進む必要がなく腕も肘以上に持ち上げる理由がないが水平方向に身体が伸びていくようなイメージがある。”h”の身体と比較しながら交互に行ってみると、”n”と”h”の間に“a””e””i””o””u”といった普段使っている動きがあるように思える。つまり休息のからだと考え中の身体の間に“a””e””i””o””u”といった普段使っている活動的な身体があって、活動のための準備の身体なのではないでしょうか?

普段話をしている時にも話途中に「んー」とか「えー」とか無意識に発音してしまうが、これは次話す内容や動作を考えている時で、緊張して少し前のめりの時に押しとどめてくれているように思うので、自分に合った”n”の音を見つけてその音をキープすると、安定してパフォーマンスができるように思う。

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