動きの圧縮が与える影響 : ダンスが下手な人の特徴とは?

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この記事はダンスにおける「動きの圧縮」を探求し、「動きの圧縮」のアイデアがどのように発展してきたか、そしてダンス表現におけるその影響について解説します。プロのダンサーと下手なダンサーの動きの比較や、独自のパフォーマンスでの「動きの圧縮」の利用、そしてコミュニケーションにおける動きのニュアンスの重要性に触れながら、ダンス表現の多様性や可能性を探求します。

スティーブ・パクストンのパズル:動きの圧縮という概念

私は以前から「動きの圧縮」について考えてましたが、似たようなアイデアはコンタクトインプロビゼーションというダンスのテクニックを提案した、スティーブ・パクストンにも見られます。スティーブはこのテクニックを「パズル」と呼んでいます。例えば、受け身(合気道ロール)の動きを考えると、手を床につく、肩が床につく、背中が床につく、お尻が床についたところですっと足で立ち上がる、など連続した動作を分解すると、パズルのようにそれぞれの動きが集まって一つの動きになるという考え方です。

スティーブ・パクストン “MATERIAL FOR THE SPINE

プロとアマチュアの動き:ダンスのダイナミクスに関する洞察

「わける手順 わすれる技術」では私と美術家の高嶋晋一と振付家の神村恵と創作した作品の「失敗の技術化」中で明確になりました。例えば、プロのダンサーと下手なダンサーをスローモーションカメラで動作で動作を比較した時、プロのダンサーはスローモーションでもシンプルで美しい動きをしているのに対し、下手なダンサーは空中でも様々にもつれた動きが見られ、動きをコントロールできていないようにも見えます。プロのダンサーは考えた動きを素早く再現し、繰り返しても疲れない体を持っていることが求められています。

このシンプルな動きを再現できる能力は、振り付けを覚えやすく疲れにくいため、プロのダンサーにはそのような能力が要求されるわけです。一方、下手なダンサーは常に全身で考えながら動いており、色々な可能性を探ってしまっているため、体が硬く、疲れやすいです。

「わける手順 わすれる技術」ではこれを逆手にとって、下駄だと思われていたダンサーに動けてしまうダンサーが習うというパフォーマンスでした。

“わける手順 わすれる技術 ver.1.2” 2014Ongoing(東京)

面白くないと下手の違い:誤解を解く

少し話はそれますが、下手なダンサーと面白くないダンサーは同じではありません。これらは全く異なるものです。面白くないダンサーの特徴は、そのダンサーのやりたいことが先に予測され、観客にとって予測可能なパフォーマンスしか生まれないため、魅力がないのです。つまり、動くたびにネタバレしてしまうような動きなのです。一方、下手なという言い方に誤解があり、色々な可能性を秘めていることを意味し、多くの引き出しが重なっているため、色々な状況に対応できるかもしれないのです。

4. アレゴリアンと動きのニュアンス:概念の誕生

アレゴリアン 「突然のニュース+トイレに行きたい」2009

2009年に創作した「アレゴリアン」は、アレゴリー(寓意)をパントマイム的な面白おかしいキャラクターとして活用したパフォーマンスです。当時、動きの特徴として、笑いながら泣くといった、複数のニュアンスを重ねて表現できることに注目しました。言葉で複数のニュアンスを同時に込めることはことばの上では難しいですが、動きの場合はその可能性があります。アレゴリアンは、複数のタスクを重ねて同時に処理するように動くことで、新しい視点から動きのアイデアを身体で考える試みです。その特徴的な動きは、文章では表現しにくいニュアンスを創造します。

アレゴリアン「内また+ガニまた」2009

インターアクトメント研究の進展:動きへの言葉の統合

先日(2023年)に発表した「インターアクトメントの習作」では、アレゴリアンを発展させ、扱う言葉を動詞と助詞に分けて創作しました。まず、あらかじめ用意された動詞に助詞としてオノマトペを観客と選び、動きのパーツを創作、次にそのパーツごとの親和性を吟味することで、言葉遊びをするように動きを組み立てる、振付の創作自体を見せるパフォーマンスです。多くのダンスはすっきり見せたいものですから、助詞としてのニュアンスはシンプルにしがちですが、ここではニュアンスを複雑に絡み合います。

インターアクトメントの習作 2023

動きを通じたコミュニケーション:ダンスの視野の拡大

動きを圧縮するという観点から考えると、自然言語(話し言葉と書き言葉)と比べて、動きを使ったコミュニケーションはニュアンスの面で優れています。例えば、怒っている時の母親の笑顔や、渋滞に巻き込まれた時のため息のように、動作には多重に重なるニュアンスがあります。これは、ひとそれぞれが持つ潜在能力であり、まだまだ発展する余地があると考えられます。

現状のダンスは音楽が主導的であり、動きが連続的に組み合わされることで表現される傾向がありますが、身体の動きでは複数の要素を同時に混ぜ合わせることが可能なのです。これにより、より多彩な表現やニュアンスをもたらす可能性があります。

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