日本のGDPの1人当たりの生産の低下から見える生産性の問題や、自民党の裏金事件が背景にある問題。これらの問題は、あまり語られていませんが、パーティーに参加していた人々の動機を考えると、その根底には既得権益をお金で保持しようとする非生産的な企業の問題が隠れています。これらの問題と直接的では無いとはいえ、間接的に関連している1つの事例について書きたいと思います。
砂糖工場の技術と製品
丁度一年前に作品制作のため、日本の砂糖工場見学に同行したことがあります。わたしはメインのリサーチャーではなかったので、門外感はありますが、所属も変わったしあれから一年たったので、当時のリサーチとは別の視点で述べたいと思います。
砂糖工場見学の際、工場職員の説明では、真っ白な砂糖を精製する技術は日本が優れているそうで、その工場でも純度の高いグラニュー糖を生産していると語っていました。そもそも砂糖の精製過程は、サトウキビなどの原料を細かく粉砕し汁を絞り、煮ていらない成分を取り繰り返し煮詰めて結晶を作り、最後には遠心分離機で純度の高い結晶を作る。最初の煮汁をそのまま固めたものが黒糖で、繰り返し煮るうちに、少し焦げてしまったものが、三温糖。三温糖は白砂糖とほとんど成分は変わりません。そして99.9%精製されたのがグラニュー糖です。工場は砂糖の原料から汚れを取り除くためにありますから、黒砂糖などは「汚い砂糖」と呼ばれており、真っ白砂糖へのこだわりが強調されていました。
消費者ニーズ
一方、工場技術者の思いとは反して、砂糖の消費量は年々減少し、自動販売機で売られている飲料水も、甘いものは減っており、「無糖」と表記が目立ちます。消費者のニーズが変化していることがうかがえます。不純物が一切含まれていないグラニュー糖は身体によくないといった健康面でのしてきもおおく、実際問題として、糖の過剰摂取は健康を害するとされている。
ファーストフードではスティックの砂糖は無料ですし、スーパーで売られている砂糖も安価で購入できているのも、日本では砂糖精製に対して国から補助金が出ているからです。しかし、砂糖の精製には莫大なエネルギーが必要であり、消費者が99.9%精製されたのがグラニュー糖を求めているかは疑問があります。これは、そもそも明治政府が近代化を国家政策として進める際に、効率よくエネルギーを摂取するために砂糖が不可欠という政策に基づいています。近代化には効率よく接種できるエネルギーであり、娯楽要素もある砂糖という食材は近代化とセットのツールと言ってもよく、日本に限った話ではありません。
政府の補助金と産業構造
見学した明治時代から続く砂糖工場は、赤煉瓦のノスタルジックな建築を今でも使用しています。しかし、これは単純に、建物を改造する予算がなく、受容が伸びない業界では、ぎりぎりの運用が望まれています。
(余談ですが、家業の自動車学校は、少子化と車離れの影響で、年々免許取得者数が減っており、国の補助を受けている点以外は似た状況です。)
砂糖の精製作業の効率については、以下の図を見ても分かるように、ベルトコンベアーで素材が4回も高所に移動しています。精製行程では、素材が下へ下へと移動する方が効率が良く、理想的には高層ビルのような工場で上から下に落とす方が良いといえるでしょう。
砂糖産業と国際比較
このような状況は日本のマスコミは取り上げていませんが、スイスでの記事を見つけましたので紹介します。
SWI swissinfo.ch 収益少ない製糖産業 スイスが支援する理由とは
ここでも述べられているように砂糖の必要性として、スイスでは非常用備蓄が挙げられ、砂糖は、万が一の不足に備えて国が備蓄をする食料物資の1つである。日本では備蓄は義務ず蹴られていないようですが、一般社団法人食糧油脂工業連合会と一般社団法人日本砂糖輸入販売協会が共同で、砂糖の備蓄事業を実施しています。この事業では、年間約70万トンの砂糖を備蓄しており、これは国内年間消費量の約2ヶ月分に相当するようです。記事の中では「危機に際して自分で何とかしなければならなくなった場合、スプーンで砂糖を食べてしのぐことはできない」と批判されているようです。特に米のような自給率の高い炭水化物に比べて、ほぼ海外からの原料調達に頼っている砂糖の精製にどれだけエネルギーを使うべきかは、今一度検討してもいい問題だと思われます。
新エネルギーと既存の規制
砂糖の問題について別の視点から触れてみましょう。昨年おこなわれた砂糖のリサーチでは、精製工場に加えて、砂糖からバイオエネルギーを取り出す方法を調査しました。
現在の日本の法律では、砂糖を発酵させてアルコールを作る場合、酒造組合の登録が必要です。しかし、日本の酒造組合は新規のベンチャーの進出を制限するために酒造免許の発行を制限しています。これが、研究としてアルコールを燃料として作る際にも障害となっています。
一方、ブラジルなどはサトウキビから大規模にバイオ燃料を生産し、様々なエネルギーへ展開していますが、日本の酒造組合の政策によってこのエネルギー政策の可能性はほとんど途絶えていると言えます。このような既得権益によって、日本が技術的な発展や新産業の可能性を阻害していることが明らかになります。
砂糖からバイオ燃料を精製する際、実は純度が高いグラニュー糖では発酵が進まないそうで、燃料としての使用可能なアルコール濃度にまでは精製できないそうです。私は専門家ではないので詳細は分かりませんが、アルコールの精製は菌類による発酵によって行われます。興味深いことに、ある程度の汚れがあると菌類が繁殖しやすいようです。
直接的な関連はありませんが、栄養を分解するのも腸内細菌の仕事です。したがって、「白砂糖の摂取は健康に害を及ぼす」という考え方は都市伝説ではない可能性があります。
まとめ
砂糖工場見学を通じて、日本の経済や技術発展にどのような影響を及ぼしているのかを考えさせられました。製糖業界や酒造組合が自民党裏金事件でのパーティー券を購入したとは思えませんが、このような企業存続が危うい大型企業がパーティー券を購入し、政治的に既得権益を保持していたはずです。一方で、砂糖であれば黒砂糖でも十分と考える消費者も一定数存在するでしょう。そこで、本当にグラニュー糖でなければならない消費者がどれほどいるのか、という点も考慮すべきです。また、備蓄という観点からも純度が高い砂糖を備蓄する必要性に疑問が残ります。政府の補助金や規制、既存の産業構造が、新しい産業や技術の発展を妨げる可能性があります。また、消費者のニーズや健康への懸念も見逃せません。これらの問題に対処し、持続可能な経済と社会を実現するためには、砂糖産業や関連する政策の見直しが必要を感じます。