第六感の探求:ダンサー安藤洋子が示すテレパシーの可能性

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生き物にはテレパシーというものがあります。これは、ビデオやモーションキャプチャーなどの科学的な方法では計測できない、非科学的な範囲でのやり取りです。しかし、舞台で作業をしていると、ダンサー同士では、信じられないような以心伝心にも似た体験をすることがあります。それら身体表現におけるテレパシーについてまとめました。

安藤洋子のワークショップ

安藤洋子は、このテレパシーを、様々な方法で具体的なワークショップに落とし込んでいます。その中でも、最も簡単で効果が確実に出るものは、書籍「触覚入門」にも紹介されています。

この本p152で紹介されている方法は、「雪払い」と呼ばれるもので、背中を少し離れたところを軽く、雪かきのような仕草をすると、肩が軽くなるというものです。これ後ろからやっても同じ効果があります。

DSC 03422 1
触覚入門p153

テレパシー

これ以外に、2人ペアになって前後に行うワークショップもあります。3-5mほど離れたところに同じ方向に向いて立ち、前に立っている人は、後ろの人が歩き出す瞬間を捉えて歩き出すというものです。背中側で感じて歩くもので、視覚、聴覚をつかうのではなく、虫の知らせを捉えるような第六感でシグナルを受け取り、完全にタイミングがあって歩き出すものです。
これは正解は後ろの人にしかわからないので、一説には、前の人につられて、後ろの人が歩き出してしまう人の行動につられて歩いているにもかかわらず、自分自身の行動だと勘違いしてしまっているという反論もあります。しかし、これが上手い人と下手な人がいることから、歩き出すタイミングを人に事前にさせられるようにこう動くことができるというのも、これはこれですごい話です。

テレパシー上級者編

ここまでは、比較的一般レベルのワークショップでしたが、さらに上級者向けのワークショップがあります。
私は実際に立ち会ったのですが、ステージ上で舞台奥に向いて立ち、あらかじめ客席にいる安藤氏が手を挙げたら、その後ろ向きのダンサーは手を上げるという指示がしてありました。多くのダンサーはもちろん同期して手を上げることはできませんが、そのダンサーは、10m以上離れているにもかかわらず、確率で同時に手を上げられるのです。百発百中というわけにはいきませんが、5回に3回は当たりました。安藤氏はこのような無茶な支持をダンサーにだしておきながら、実際にそのダンサーの正解率に面白くなってゲラゲラと腹を抱えて笑っていました。普通に考えてほとんどの人は5回やっても1回も当たらすのです。
この信じられないほどの感受性は、証明することが難しいですが、動物の間ではたびたび報告されているようです。例えば、優秀な盲導犬は主人の発作が事前に分かって、発作前に薬を持ってくる犬がいるそうで、似たような事例は多く報告されているようです。ナマズの地震予知にしても、世界には、テレパシーに関するさまざまな事例が報告されており、その可能性を完全に否定することはできません。

テレパシー的関係

フック

他に安藤洋子氏の用語で「フック」というものがあります。これは、ステージ上で即興で踊っている際に、フックと呼ばれるシグナルを出して相手を引っ掛けて手繰り寄せるようにして、周りのダンサーと踊るという時に使用しますが、観客に対してもフックを飛ばせるのだそうです。これは、他人に何らかの動きのサインを送るということのようですが、安藤氏のフックという言葉の使用事例からは、自分が動くために周りにフックを出して、踊りの指示を送っているという意味と、動きをもらっている。という意味でも使われます。

プロジェクション

フックを理解する上で、似た概念として、ダンスのテクニック、コンタクトイン プロの 創始者のスティーブ・パクストンの「プロジェクション」というものがあります。合気道に多くを触発されたスティーブは、この「プロジェクション」という概念は「投射」とか「指さし」と訳されることもありますが、スティーブ氏の思想では、プロジェクションの関係は相対的な関係が働いていると考えます。
これは、実際に本人に聞いたのですが、太陽とひまわりの絵を描いてみせ、「太陽がひまわりにプロジェクションしているのか?」と矢印を描いてと聞けば、矢印を書き足して「相対的な関係」なのだと言っていました。私たちは太陽が先にあるので、ひまわりが太陽に合わせていると考えているが、関係性においては先後はなく双方向的(bidirectional)ということになります。

介助者とのテレエパシー

別の事例では、小児科医の熊谷晋一郎氏もそのようなことを述べています。テレパシーの話ではなく、熊谷氏は出生から脳性麻痺で車椅子で生活しているのですが、病院での業務の中に自分一人でできないことを無理に自分でやるのではなく、周りの人にやってもらうように振る舞うのだそうです。周りは介助者として手伝っているつもりですが、結果的には熊谷氏に動かされています。介助をやってもらうを超えて、ここにはオーナーシップを熊谷氏側に移行させる微妙な駆け引きがあるようです。

この介助者とのエコシステムといっていいような関係は、安藤氏が周りのダンサーを動かすことで、自分の動きをより大きく作っている。もしくは、周りの動きの欲求に自分を沿わせてやると、まるでどちらが主体になっているのかわからないような状態になり、一人で結果的に省エネの解除者を作り出しているとも言えます。
熊谷氏の介助者との関係には精神的な関係性が大きく変わっていると思われますが、
安藤氏の「フック」には観客にもフックが出せることから、スティーブ氏の「プロジェクション」も含め、テレパシー的なものが含まれると思われます。

自身の経験から見たテレパシーの存在と検証

最後に自分経験からの事例をお話します。
京都で受けたワークショップで、メンバーと即興を数日間行い、最終的には観客を入れてショーイングを行うイベントでした。
即興イベントのためにワークショップメンバーは感覚をその日に向けて研ぎ澄ましていたため、出演者はみなちょっとしたサインも拾うことができるようにみんななっていました。
ステージは、袖部分とステージ部分と領域が分かれていて、パフォーマンスを行わないときは、袖中に逃げ込んで、ショーとしてオンと オフを舞台上に設定していました。

当日パフォーマンス中に、全員が袖に入ってしまうタイミングがあり、ステージは空っぽです。誰が最初にステージに飛び出すかは結構重要な問題で、ステージ上には誰が出てくるかと、沈黙が一瞬流れました。私は、その直後にすぐに出て欲しいというメッセージをキャッチしたように感じて、慌てて飛び出しましたが。ステージに出てみると、自分だけがステージに出ていました。その時気が付きました。この状況で私にフックを出せるのは観客だけだったのです。観客のフックを拾ってしまったのです。

このような測定できないようなやり取りが実際にはあって、強くそう願うと相手に届いてしまうことはやはり指摘しておかなければならないと思います。

検証としてのテレパシー

多数意見はあるものの、SFのテレパシーまでは言わずとも、「以心伝心」、「虫の知らせ」という現象は実際 多くの人が体験しているからこそ使われる用語で、これからももっと検証すべき現象でしょう。特に共同体の中でおきるテレパシーは、動物全般にも多く事例が見られます。自分の立場としては、配信でのパフォーマンスなどでの検証を行っていますが、科学的に測定できない事例です。別の記事に書きましたが、で配信ライブにおける観客と舞台とのコミュニメーションの問題に触れた際は、テレパシーのような存在は無視して整理しましたが、これは少数の人たちの話なのでその場では検討しませんでした。より突き詰めたコミュニケーションを検討する際にはテレパシーの問題は再考する必要があります。

安藤氏とスティーブ氏はダンサーというバックグラウンドからの、コミュニケーションの双方向性について語られました。熊谷氏がのべた介助者とのエコシステムに代表する相互関係とテレパシー的な関係は深いものと考えられ、さらなる検証が今後も必要でしょう。

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